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執筆者の写真広く表現の自由を守るオタク連合

河村たかし名古屋市長による愛知県知事リコール運動に賛同すべきではない理由

 新橋九段です。

 もうすでに話題にならなくなった感のある愛知県知事リコール運動ですが、署名集めが8月1日かららしいので、このリコール運動に賛同すべきではない理由をわかりやすくまとめておきました。


 簡単にまとめると

・「コロナ禍に乗じて県が訴訟を起こした」が嘘

・名古屋市はリコールにかまけてコロナ対策を怠っている

・「天皇陛下の写真を焼いた」など展示物への解釈が誤り

・リコール主催者が差別主義者や歴史修正主義者

 が主な理由です。


「コロナ禍に乗じて県が訴訟を起こした」が嘘

 まず1つ目。河村市長はコロナで大変な時に乗じ、愛知県がトリエンナーレ負担金未払いに関する訴訟を起こしたと主張しています。未曽有の災害時に無関係な裁判を起こしたとなれば、なんか卑怯な感じが出るためでしょう。


 しかし、この主張には「そもそもなぜ愛知県が訴訟を起こしたのか」という視点が欠けています。

 愛知県の訴訟は、すでに支払われることが決まっていたトリエンナーレの負担金を名古屋市が支払わないと一方的に決めたために起こされています。これが決定されたのは3月です。そう、コロナで大変なときですね。


 つまり、コロナで大変なときに無関係な騒動を先に持ち込んだのは名古屋市です。

 もちろん、負担金が決められた通り支払われれば、愛知県は訴訟を起こす必要はありません。ただ単にお金が支払われ、それで終わっていました。


名古屋市はリコールにかまけてコロナ対策を怠っている

 コロナに関連するもう1つの主張として、河村市長は負担金「3380万円 は コロナ対策費 (子どもさん ガキんちょ 看護師 医療現場) に 使わしてちょう(原文ママ)」と主張しています。負担金をコロナ対策に使用すると訴えることで、未払いを正当化する狙いがあると思われます。


 しかしながら、実際には名古屋市はリコール運動のためにかえってコロナ対策が滞る状態にあります。7月末現在、名古屋市の検査能力は感染の可能性がある者の人数をさばききれる状況になく、陽性率3割という数字をたたき出しています。


 この件に関して、7月25日に大村知事は「言っていただければ県でいくらでもやる」と発言しましたが(『錦三、栄、大須、新栄でも… 名古屋で市中感染が拡大か』朝日新聞参照)、検査能力が改善された様子はありません。河村市長がリコールを訴えている体面上、検査の協力を要請できないためではないかと憶測されています。


 愛知県全体でも感染者数は増えつつありますが、知事が無為無策を繰り返している東京都や大阪府に比べて非常に低い水準にあります。つまり、大村知事はコロナ対策を十全に行っていると評価できるでしょう。


 なお、名古屋市は定額給付金の給付もほかの自治体に比べて遅いと問題視されていました。これは、当初100万を超える世帯の申請をたった8人の職員で処理しようとしたためです。


「天皇陛下の写真を焼いた」など展示物への解釈が誤り

 このリコール運動の主要な理由は、あいちトリエンナーレ内の『表現の不自由展・その後』における展示物が日本、日本国民、天皇陛下を侮辱していてけしからんというものです。しかしながら、特に問題視されている『平和の像』と写真を焼いたとされている『遠近を抱えて PartⅡ』に関しては、このような解釈がそもそも誤りです。


 『平和の像』は朝鮮人の戦時性暴力被害者、いわゆる慰安婦を象った像です。像は椅子が2つ並び、そのうち1つに少女が座っているというだけのものです。

 太平洋戦争中に、このように軍に強制連行され被害にあった戦時性暴力被害者が存在したことは、日本政府も公式に認めている歴史的事実です(『外務省 歴史問題Q&A』などを参照)。歴史的に存在した人を象っただけの、しかも少女が座っているだけの像が侮辱になるという解釈は不可解です。


 『遠近を抱えて PartⅡ』に関しては、確かに昭和天皇の写真を焼いた映像作品ではあります。しかしこれを「天皇を侮辱した作品」であると解釈するのは誤りです。そもそもこの映像作品は20分あり、写真を燃やすシーンはわずか、かつ全体を見れば「侮辱のために燃やした」とは理解できないようになっています(『「表現の不自由展・その後」で「天皇を燃やした」と攻撃されている大浦信行さんに話を聞いた』などを参照)。

 さらに、この燃やすという演出は、映像に登場するコラージュ作品を1985年に富山の美術展で展示したところ右派の攻撃にあい、作品を含む図録を焼却処分されたという実際の出来事とも関連があります。つまり、そもそも最初に天皇の写真を燃やしたのは右派だったというわけですね。


 2020年の現代であっても、皇族の写真は報道の文脈で新聞や雑誌に掲載されることがあります。こうした新聞や雑誌の大半は不要になれば焼却されることも多いわけですが、それが侮辱であると批判されたことはありません。焼く=侮辱という図式がいかに単純で無理のあるものかわかると思います。


 もっと言えば、我々には表現の自由があり、天皇を含む皇族を批判・非難する表現であっても当然自由に行えるべきです。一般に、個人を侮辱する表現は法的責任が問われますが、天皇の権力性を考えれば、少なくとも一私人よりは広く認められるべきですし、トリエンナーレで展示された作品が法的責任を取らなければならないほど著しく侮辱的なものであるとも言えません。


リコール主催者が差別主義者や歴史修正主義者

 最後に最も重要な点として、これを挙げておきます。愛知100万人リコールの会のHPトップには写真が掲載されており、会の代表者である高須克弥氏と賛同者である武田邦彦氏、竹田恒泰氏、百田尚樹氏、有本香氏が写っています。しかしながら、この全員は多かれ少なかれ差別的発言、歴史修正主義的発言が問題視されている人物です。


 代表の高須克弥氏は説明不要でしょう。氏は「南京もアウシュビッツも捏造だと思う」と発言し米美容外科学会から会員資格を剥奪された過去があります(『高須克弥氏、米学会の会員資格はく奪か 人権団体が声』朝日新聞参照)。また最近では、ALSを業病と表現した石原慎太郎元都知事のツイートに賛同を寄せてもいます。


 賛同者の1人である武田邦彦氏はCBCの番組『ゴゴスマ』内において、「日本男子も韓国女性が入ってきたら暴行しないといけない」と発言しています(『番組出演教授の韓国人差別発言 ヘイトを許さない 名古屋CBC前で抗議集会』しんぶん赤旗参照)。また竹田恒泰氏もサンフランシスコ市に建てられた少女像について「こんなところに、こんなもん建ておって」「鼻クソの刑を執行」などと発言しています(『竹田恒泰が慰安婦像に「鼻クソの刑」ツイートの愚行! ヘイト発言を撒き散らすレイシストを文化人扱いするメディアの罪』exciteニュース参照)。


 百田尚樹氏についても説明は不要でしょう。あくまで一例をあげれば、Twitter上で『はっきり言います!韓国という国はクズ中のクズです!もちろん国民も!』と発言しています(この点に関してはTwitter Japanに対し、なぜポリシーに反しているにもかかわらずアカウントが凍結されないのか公開質問状を出していますが、反応はありません)。そしてこの百田氏と共著という形で、内容に大きな問題がある『日本国紀』の副読本を書いているのが有本香氏です。


 こうしてみると、全員が差別と歴史修正主義のどちらかあるいは両方に関係していることがわかります。そして実際は、河村市長も例外ではありません。氏はかつて南京事件を否定する発言をして批判されているほか、トリエンナーレ会期中に座り込みを行った際に共同していた団体はヘイトスピーチを繰り返しているものでした。


 このような人々によって提起され賛同されているリコール運動に加わることは、自身を歴史修正主義者であり差別主義者であると規定することにほかなりません。仮に大村知事に批判があり、さらにリコールすべきであると考えていたとしても、このリコール運動に賛同することだけはやめたほうがいいでしょう。


 ほかにも、河村市長はかつてのリコール運動で集めた個人情報を選挙運動に流用した可能性があるなど、賛同すべきではない理由はまだまだあるのですがキリがないのでここまでにしておきます。自ら差別主義者に近づく必要はありません。ましてや、このような人たちに署名という形で個人情報を渡すのは危ういでしょう。絶対に賛同すべきではありません。

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