新橋九段です。
河村たかし名古屋市長が12月10日、日本外国特派員協会で会見を開きました。この模様はYouTubeでアップされていますので、ひと通り見ました。リンクはこちら。
一言でいえば為政者とはとても思えない愚論暴論を1時間垂れ流す会見というものでした。会見のポイントを2つにまとめると以下のようになります。
・従軍慰安婦の強制連行は嘘だった。
・展示の申請に嘘があった。
1つずつ、論点を見ていきましょう。
従軍慰安婦の強制連行は嘘だった
いうまでもなく、従軍慰安婦の強制連行は歴史的事実です。ここでそのことを議論するつもりはありません。ちなみに、歴史修正主義者を大量に抱える現政権ですが、政府の見解は『平成5年(1993年)の調査結果発表の際に表明した河野洋平官房長官談話において、この問題は当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であるとして、心からのお詫びと反省の気持ちを表明し、以後、日本政府は機会あるごとに元慰安婦の方々に対し、心からお詫びと反省の気持ちを表明してきた』(慰安婦問題に対する日本政府のこれまでの施策-外務省)というものであり、従軍慰安婦の存在を認めています。
興味深いのは、強制連行が嘘だというその30秒も経たないうちに、父親から慰安所があったという話を聞いたことがあると述べている点です(動画では47分ごろ)。前後の話から察するに、おそらく氏は「逃げ惑う女性を縛り上げて連れ去った」ようなものだけを強制連行と認識しているのでしょう。しかし実際には、それをどう表現するかはともかくとして、女性を騙して慰安所へ連れてきた、あるいは借金のかたに働かせたというのも十分問題なのです。「強制連行」を極めて狭い範囲に絞ることで自説がさも妥当であるかのように見せかけているのでしょう。
なんにせよ、公然と歴史修正主義に基づく発言を繰り返すという行為それだけでも、河村氏は市長の地位に相応しくない人物であることは確実です。なお、氏は以前にも「南京事件はなかった」という趣旨の発言をしていることを添えておきます。
展示の申請に嘘があった
もう1つの論点は、展示の申請の際に虚偽の説明があったというものです。会見に参加した記者には資料が配られていましたが、動画には映らなかったため、この主張の真偽をここで論じることはできません。
しかし、会見での氏の言動を見るに、仮にこの部分の主張が正しかったとしても、市の主張が妥当であるということにはならないだろうと思われます。
というのも、氏は「展示の内容を問題視した過去の態度と、申請の虚偽を問題視する現在の態度が違う。申請に嘘がなかったら問題なかったのか」という主旨の質問され、もし申請が正直になされていれば実行委員会を呼んで話し合うと答えているからです(動画では41分ごろ)。つまり、内容を問題視して展示を止めさせる、あるいは何らかの対処をするために動くつもりがある、検閲をするつもりだったと述べています。
そもそも、申請に虚偽があったから問題だという姿勢自体、展示内容に口を出す意図が前提となっています。申請がいつの段階でなされたものかはわかりませんが、あらゆる展示品についてすべて全く変更なく申請することは明らかに現実的ではありません。自治体としては、ある程度申請から実際の展示までに変化があったとしても、展示内容が他者の人権を損害するようなものにガラッと変わるとか、補助金が想定していた展示規模から極端に縮小しているというものでなければさほどの問題はないはずです。そして実際に、展示された動画の内容が多少変わったというのは、自治体にとってさほどの問題ではない範囲の変更といえるでしょう。これが問題だという市長の態度は、明らかに「補助金を適切に運用し展示を問題なく実行する」自治体の使命からくるものではなく、「天皇の写真を焼く内容が気に入らない」という個人的な好みからくるものです。
ともあれ、市長が展示内容を確認した際に、自身が気に入らないと思った内容があれば口を出して変更を求める気であったことは明白です。仮に申請にある程度虚偽が含まれていたとして、皮肉なことですが、展示内容を正直に言わないという実行委員会の判断は正しかったとも言えます。
このような歴史修正主義的な発言、表現の自由に対する無理解からくる発言を繰り返し、展示を積極的に妨害し、その行動が脅迫に拍車をかけることになった、そんな人物が自治体の長に相応しいとは到底思えません。
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