新橋九段です。
皆さんはあまり聞き覚えがないでしょうけど、今国会に超党派で提出を目指している「MANGAナショナルセンター法案」というものがあります。
この法案は簡単に言うと、漫画やアニメのようなサブカルチャー、オタク的な文化を保存して利用する拠点を作るための法案です。しかし、今国会での提出は現状難しそうな感じです。
そもそも、なんでこんな重要な法案に聞き覚えがないかというと、この法案のために積極的に動いている(らしい)山田太郎氏はじめとする人々が、さほど熱心に周知していないからです。まぁ、私個人に関して言えば「表現の自由戦士」的な人々はおおむねブロックしてしまっているのでそのせいで聞こえてこないという可能性もありますが、観測範囲ではほかの人も同様の印象なようです。
法案が提出できないのは野党のせい?
しかし、とうの山田太郎氏はインタビュー(『「今こそアニメに恩返しを」山田太郎議員が語る“MANGAナショナルセンター法案”の重要性と直面する廃案の危機』参照)でこんなことを言っています。
—今国会での法案成立の見通しが難しくなっていることが伝えられています。
前回、昨年の通常国会は参議院選挙前だったため、政局含みになってしまい成立まで至りませんでした。内閣が提出する閣法と議員立法のうち、閣法の議論が先になり、議員立法はどうしても後回しになってしまう。結局、時間切れで出すことができなかったという経緯があります。
今回は途中まで順調に進んでいたものの、国会自体が「桜国会」のような状況になり、文科委員会も何度か飛んでしまいました。そもそも審議時間が短くなっているなかで、野党が11月14日に「記述試験中止法案」という法案を出したことが、メディア芸術ナショナルセンター法案の今国会での成立が厳しくなった背景にあります。
—記述試験中止法案とバーター取引のように考える野党議員の発言も見られます。
私たちが進めているこの法案は、超党派のマンガ議連が進めてきたものです。各党では党議が終えて、正式に決まったものです。あとはどのタイミングで文部科学委員会に出すかという段階まで来ていたのに、記述試験中止法案と取引にされてしまった。記述試験を通すなら、メディア芸術ナショナルセンターを通すというようになって、日にちばかりが経ってしまった。
両方とも進めればいいと思われてしまいそうですが、期限があと半月しかない中ではどの党も党議が間に合いません。現実的にどうやっても1週間から2週間はかかってしまうので、絶対に飲めないものをぶつけられてしまったということになります。そもそも、与野党合意している超党派の法案と野党が一方的に出してきた政局法案とぶつけてくるのはおかしいと思います。これに関しては、野党のマンガ議連の議員さんにも頑張ってほしいと思っています。自分たちも党内では了承を得るなどして、野党のメンバーもMANGAセンター法案は実現が重要かつ大切な法案ということで進めてきたのに、自分の党でそんなことをやっているのはおかしいでしょう、って。与自民党と野党側が対立するような構図にするのは違うと思います。
要約すると、法案が提出できないのは野党のせいだそうです。
しかしこれは、あまりにもアンフェアな評価といえましょう。
そもそも、今国会が「桜国会」の様相を呈したのは、政府主催の「桜を見る会」およびその前日に安倍首相の後援会が行ったパーティーに関する疑惑によるものです。その疑惑も、政治資金規正法その他の法律にのっとっていれば残っているはずの資料を提出すれば1時間もかからずに晴らせるものです。潔白ならばですけど。
また記述試験中止法案も、その経緯と重要性を考えれば決して「政局のために」提出されたものではないことは明白です。
第一、委員会運営の主導権を握っているのは圧倒的多数派の与党です。時間が足りないというのであれば会期を延長すれば済む話でしょう。極端なことを言えば、「MANGAナショナルセンター法案」を数に任せて強行採決するという手もなくはない状況です。本当に今国会で採決しなければならないならそういう手段もあります。
しかし、与党自民党はそのような対処を一切行わず、結果として法案はお流れになる公算が高い状況になりました。その責任を野党に擦りつけるのは、与党の政治家として、自民党を中から変えると豪語して当選した人物の振る舞いとして適切だとは思えません。
自民党に資料保管を任せられるか?
また、法案の成立とは別に、私としては自民党、現政権主導という状況で「何らかの資料を保管する仕組みを作る」こと自体に否定的です。なぜなら、現状を考えれば、適切な資料保管は明らかに望めないからです。
まず、現政府の手にかかれば、収集した貴重な資料が破棄されるという最悪の事態が起こる蓋然性が低くないと言えます。
桜国会がここまで長引いているのは、政府が資料を破棄したからです。以前にも、自衛隊の日報などありとあらゆる資料を破棄してきました。今年に行われた行事の資料すらまともに保管できない人々が、貴重な資料を保管できるはずがありません。
また、現政権は表現の自由を積極的に弾圧してきました。トリエンナーレの件が記憶に新しいですが、東京と健全育成条例を成立させようとしたのも自民党です。このように自身の主張と相反する表現を積極的に潰そうとしてきた人々が、反戦・反権力・反差別といった主張を含むものもあるであろう過去の資料を適切に管理・活用できるとは思えません。
今年相次いだ豪雨では、資料を保管している地下に水が入り資料が汚損されるという事態も起きています。かつて麻生政権で似たようなものを作ろうとしたときには、計画のずさんさなどから「国営漫画喫茶」と揶揄されることになっています。どのような箱を作りどのような活用をするかは、拙速に決めずじっくりと熟議を経て決定する方が、資料の保管というミッションに沿ったものができるでしょう。
早く廃止しないと受験生に甚大な悪影響が生じる記述試験とは違い、MANGAナショナルセンター法案は無理に今国会で成立させる必要性がそもそもないでしょう。うまくいかないのを野党のせいなんかにしていないで、十分に議論を尽くして、いいモノを作っていただければと思います。
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