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相手の主張を曲解し、差別主義者に同調する議員や組織に「表現の自由」を論じる資格はない

更新日:2021年9月11日



 コラボの経緯についてはこちらで、フェミニスト議連の抗議はこちらで確認できます。それぞれの言い分に賛否はあるでしょうが、今回問題としたいのは「そこ」ではありません。もっと基本的でどうしようもなく初歩的なことです。


 フェミニスト議連の抗議に反応し、ある署名が立ち上げられました。『全国フェミニスト議員連盟宛抗議と公開質問状』と題されたもので、発信者は青識亜論を名乗る人物です。これが問題です。


 詳細は後述しますが、発信者の青識はこれまでにもデマと差別的発言を繰り返しており、差別主義者と評価して過言ではない人物です。そして、署名の文面にはおびただしいまでの曲解、事実誤認、基礎知識の欠如がみられます。とはいえ、これだけではどこかの差別主義者が騒いだだけの、いつものネットのあれというだけです。


 この件で重要なのは、この署名に6名の地方議員とエンターテインメント表現の自由の会(AFEE)が名を連ねていることです。表現の自由に関して長年活動しており、山田太郎が名誉顧問を務める組織の支援と議員の賛同もあり、このような署名に現時点で1万人以上が賛同するという由々しき事態になっています。


 これまで、当連合のブログでは強い表現を控えてきました。曲がりなりにも連合の名義で公開される記事だからです。しかし、今回だけは、批判も覚悟のうえできつい表現を用いてこういわなければなりません。この署名に賛同する団体と議員に、表現の自由を語る資格はないと。


発信者が差別主義者であるということ

 なぜ、『この署名に賛同する団体と議員に、表現の自由を語る資格はない』のでしょうか。主な理由は2つあります。第一に、発信者の青識亜論が差別主義者だからです。


 詳しくない方にいくつか実例を挙げて説明します。例えばセクシャルマイノリティについて『私はLGBTを気持ち悪いと思う。でも、あなた方がそのように在ることの権利は命を賭けても守ろう』と発言しています。セクシャルマイノリティを気持ち悪いと公言してはばからない人物だということです。


 また、小児性暴力について、子供のかたちをしたダッチワイフを擁護する長文の記事(論点整理:少女型ラブドール規制論)を書いてます。同時期には小児性暴力の治療が非人道的で苦痛を伴う手法を用いるかのような事実に反する主張を行い(これ)、そのなかでかつて同性愛者が受けた非人道的な治療と重ね合わせるということを行っています。


 人種差別も深刻です。彼は『サークルメンバーと一緒に朝鮮学校展に押しかけて、歴史論争を挑んだ』とも公言していますが(これ)、これも在日コリアンが歩んだ歴史的経緯を無視し、少数派に「自分が納得するまで説明せよ」と迫る差別的態度と歴史修正主義に基づくものです。


 挙げればキリがないのでこの程度にしますが、ここで挙げたごく少数の例だけをもってしても、彼が差別主義者であるという評価は納得していただけると思います。百歩譲ってそこまでの評価に賛同できないとしても、問題ある人物であることは言うまでもありません。


 そうした人物の発信した署名に、議員や団体が名前を連ねるべきではありません。そのような行為は、差別主義者があたかもまっとうな見識の持ち主であるかのような誤った印象を社会に流布し、彼による差別発言の流布をも助けるからです。彼の「行為」について詳しくない人は、議員が賛同しているという部分で彼を信用することになるでしょう。そうなれば、彼の差別的発言もまた信頼されてしまう危険性があります。


 議員という公人の立場であれば、また公に活動する団体であれば、自身の振る舞いによる影響はある程度考慮すべきです。少なくとも、自身の振る舞いが差別主義者の手助けになるような事態は断じて避けなければなりません。


 表現の自由は、人々が平等に扱われる社会の実現のために重要な権利です。同時に、表現の自由の行使はそもそも人々が平等であることを前提にしています。そんな権利を守ることを第一に掲げる議員が、差別主義者を手助けするというのは本末転倒です。そのようなことをする議員や団体を、本当に表現の自由を守るために働くとどうして信じることができるのでしょうか。


署名そのものの問題

 発信者が差別主義者である以上、署名の内容のいかんにかかわらず賛同すべきではありません。が、今回に限ってはそのことを考える必要はなさそうです。署名の内容も滅茶苦茶だからです。


 今回はあえて、署名の主張自体に反論することはしません。なぜなら、主張の前提となる事実認識に誤りが多すぎるからです。前提が誤りであれば、そこから導かれる事実には意味がありません。ですから扱わないというだけです。


 以下に、事実誤認を列挙します。なお、フェミニスト議連に対する質問の内容にも立ち入ることになり、そのことを出過ぎた真似であると思う人がいるかもしれません。それは一面事実です。しかし、こうしたバックラッシュの基本戦法に「基本的な質問を延々と繰り返し疲弊させる」いわゆるシーライオニングと呼ばれるものがあり、これはその1つではないかとも思えます。シーライオニングは相手に負担をかけ続け、疲弊させて黙らせることを狙う手法です。ですから、こうした低レベルな事実誤認を説明する負担は、彼らのようなミソジニストと同じ男である私が請け負って責任をもって片付けるのがむしろ妥当ではないかと思います。その点をご理解ください。


 さて、順番が前後するかと思いますが、まず最初にフェミニスト議連への質問項目を順に取り上げます。


 最初に『VTuberが「丈の短い着衣」「大きな胸」であることが直ちに「性的対象物」になると断定する』とありますが、これは公平ではない表現でしょう。ここだけ読むとわずかな手掛かりをもとに短絡的な断定がなされたように見えますが、実際の公開質問状を見ると、胸部の揺れや腹部の露出、ティーンエイジャーであるといった多くの要素を踏まえています。そのことは署名自体も前半部で触れており、わかっていて異なった印象を抱かせるためにこの文章ではオミットしたのではないかと思われても仕方がありません。


 また、この文章では、キャラクターを「性的対象物」であると判断したのがあたかもフェミニスト議連であるかのように書かれていますが、これも悪質な誤魔化しです。実際には、議連が『性的対象物として描写し、かつ強調しています』と指摘するように、これらの要素を「性的対象物」として利用しているのは表現者の側です。議連が列挙した要素が多かれ少なかれ性的な要素の強調のために利用されるのは、表現において極めて一般的なことです。特に「胸が揺れ続ける」という不自然な描写があえて行われていることを考えれば、性的な要素を強調するためではないという主張はにわかに信じられません。


 次に『VTuberが地域の交通安全啓発をすることが、なぜ「性犯罪誘発」につながるのか』と指摘していますが、これはシンプルな誤読です。議連は上で列挙した特徴を持つキャラクターを警察が利用することを問題視しているのであり、『VTuberが地域の交通安全啓発をすること』を問題としているわけではありません。また、性犯罪の誘発はあくまで『懸念』という弱い表現で指摘されているにすぎません。本筋はおそらくジェンダー平等でしょう。


 3つ目に、『あなた方の抗議活動は、「株式会社 Art Stone Entertainment」やVTuberを運営するクリエイターの公共空間における表現活動の場を奪い、経営者である板倉節子氏をはじめ、女性の自己表現の機会を潰す結果となっております』とありますが、これも実際よりも大げさで公平性に欠ける表現です。議連が問題視したのは、あくまで警察という行政の活動であり、VTuberが動画投稿サイトなどで行うその他の活動については一切言及されていません。抗議の対象も一貫して行政になっていることに注意すべきです。これは議員の立場から表現を批判する際の配慮として当然のことでしょう。


 4つ目には『自らの肉体の年齢や性別と異なる姿になり、自らの意思によってその服装や肉体の在り方を決定するというVTuberという存在について、LGBT、特にクロスドレッサーの人権の観点から、どのようにとらえているか』とありますが、これに至っては意味不明というか、今回の件に関係ないだろうというべきです。今回問題となっているのは、あくまで「(シスジェンダーの)女性表象」の使われ方です。ですから、中身が男だろうが宇宙人だろうが関係なく、女性として表現されているのであれば、それはジェンダーの観点から批判されるというだけの話です。中身が誰であろうと、それが女性として表現され女性として受容されている以上、その影響を引き受けるのもまた女性です。


 余談ですが、青識はVTuber表現への批判について、よくこの手の主張を持ち出します。おそらくセクシャルマイノリティを持ち出せば「リベラル」は黙るという目算か、あるいは相手方にセクシャルマイノリティを差別する人間であるというレッテルを張れると思っているのかもしれません。どちらにせよ、自身がセクシャルマイノリティに差別的な発言を公にしているにもかかわらず、都合がいいときには利用するという態度は心底醜悪であると言わざるを得ません。


 最後に『戸定梨香氏の体型や服装は、VTuberとしてごく一般的なものと考えます』とありますが、これも関係ありません。ここで問題となっているのは行政の利用する表現としての「キャラクターの服装」であり、民間が各々の責任で表現するVTuber一般の平均とは無関係だからです。また、『「性犯罪を誘発する」と貴連盟が断定する』ともありますが、これは上述したように、議連があくまで『懸念』としか表現していない点を無視するアンフェアな表現です。


 ここまでで列挙したことからわかるように、この署名は相手方の主張を正確に読み取っておらず、不正確で不誠実な表現を用いて相手方の主張に誤った印象をつけることに終始しています。相手の主張に異論があるなら、正々堂々とその主張に反論すべきであり、小手先のおためごかしで支持を集めて「勝つ」ことには本来、何の意味もないはずです。


 まぁ、差別主義者である発信者がこうした「ネット議論」の作法に忠実であるのは、驚くべきことでないのでしょう。問題はやはり、こうした不正確で不誠実な署名に、議員が名を連ねているということです。それはつまり、彼らに相手方の主張や署名の主張を正確に理解する能力がないことを示してしまうことになります。議員の主な仕事は議会での議論ですが、A4用紙1枚程度の文章を読みこなせない議員にその仕事が務まるでしょうか。


もう一度、議論の基礎に立ち返り

 このように、大問題のある署名に名前を晒して賛同するという愚行を目の当たりにしてもなお、私には「身内びいきの甘さ」のようなものがあるのも事実です。それは、署名に賛同した議員の中には立憲民主党の、つまり私が応援する野党共闘の枠に含まれる議員もいるからです。自民党のように組織が根から腐り落ちているような場合とは違い、立憲ならまだ組織がまともだから「更生」の余地があると思ってしまうのです。「甘い」と言われればぐうの音も出ませんが。


 あの署名に賛同してしまった議員に求めるのは、もし本当に表現の自由を真剣に考えるのであれば、もう一度虚心坦懐に議連の主張と署名の主張を読み直してほしいということです。虚心坦懐というのは、いっそのことここ10年くらい記憶喪失になったつもりで読んでほしいということです。議連の主張に賛同するかどうかは別として、きちんと文章を読みさえすれば、あの署名に賛同するのはさすがにまずいとわかるはずです。


 議論の基本は、相手の主張を正しく理解することのはずです。主張の理解がそもそも歪んでいては、議論は成立しません。それでは物事は前に進まないし、あなたの主張も小手先の詭弁の域を出ないはずです。このことを、もう一度よく考えてみてください。

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