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執筆者の写真広く表現の自由を守るオタク連合

出版物総額表示義務化という愚策をやめよ

 新橋九段です。現在、Twitterでは「#出版物の総額表示義務化に反対します」というタグが広められています。


出版物総額表示義務化とは?

 まず、この制度について簡単に共有しておきます。

 お手元に何らかの本をご用意ください。その裏表紙には定価について「本体○○円+税」という表示があると思います。これは現在一般的に使用されている書籍の販売金額表示です。


 出版物の総額表示義務化とは、この表示を「○○円+税」ではなく税込みで表示せよということです。文化通信社の報道『出版物の総額表示 スリップは「引き続き有効」 財務省主税局が説明』によると、元々日本で販売される商品は総じて総額表示が義務となっていました。しかし、現在は2021年3月末まではこの義務が免除されていました。この免除は長いこと行われていました。


 それは、商品としての出版物の特殊性によるものです。消費サイクルの早い食品などと異なり、本は同じ商品を長きにわたって売り続けるという特徴があります。例えば、私の手元にある角川ソフィア文庫の俳句歳時記の初版は平成19年であり、10年以上続けて売られていることがわかります。


 「同じ商品を長きにわたって売り続ける」というのは、版元ではなく書店においても言えることです。商品としての需要が極めて低い学術書などは、何年にもわたって書店の棚に並び続けるということが起こりえます。


 このようなとき、書籍に総額表示を義務付けるとどうなるでしょうか。書店や出版社は消費税率が改定されるごとに、本のカバーを変えなければなりません。これから出版される本のカバーを変更するのはもちろんのこと、すでに店頭に並んでいる本のカバーも変えなければならなくなります。


 しかも、ここ数年で二度も税率が変わったことからもわかる通り、消費税率は極めて不安定な数字です。カバーの変更という極めてコストのかかる作業を数年ごとに要求されれば、大企業はともかく中小企業はこのコストを負担することが出来ずに潰れてしまいます。


 財務省の説明では、本に挟まれているスリップを変えるという対応でも可能だとしていますが、これはカバーを変えるよりはましという程度の話でしかありません。どのみちコストがかかりますし、コロナウイルスの蔓延とそれに伴う政府の無為無策ですでに大きなダメージを負っている企業は耐えられないでしょう。


表現に対する大打撃

 出版物総額表示義務化は、企業だけではなく表現や文化にも大打撃を与えることが予想されます。


 というのも、税込み表示しなければ売ってはいけないということになれば、表示を切り替えるコストを回収するだけの売り上げの見込めない本は書店によって返本されるしかないからです。一方、出版社としてもそうして返本された本のうち、改めてカバーやスリップを変えてまで出版してもコストを回収できない本は新たに刷らないでしょう。そうして、マイナーな出版物は市場から消え去ることになります。


 事実、かつて消費税が導入されたときには、横溝正史の作品の大半が表示の変更に対応できず絶版となったという話もあります。表示を変えなくていいのであれば、これらの本も捨てられることなく本屋の片隅で売られ続けたでしょう。


 豊かな表現は表現の多様性によって守られます。表示変更に伴う多大なコストを回収できるだけの書籍しか売れなくなるのであれば、表現はどんどん「大衆受けして売れるもの」だけになり、ワンパターンと化して貧困になっていきます。


 想像してみてください。売れるからという理由で百田尚樹の小説が大量に平積みされている一方で、著名ではないながらも優れた翻訳小説、新書、学術書、あるいはマイナーながらも好きだった漫画などがコストを回収できないために捨て去られた本棚を。これは表現の死海ともいえる恐ろしい状況です。


山田太郎の発言

 少し話がそれるようですが。この件における山田太郎参議院議員の発言をここで拾わないわけにはいきません。

 というのも、この「広く表現の自由を守るオタク連合」は、表現の自由を守るといった「くせに」あの自民党から出馬して当選した山田太郎議員への疑念が一因となって発足した団体だからです。


 自民党は伝統的に、表現の自由に冷淡な政治を行ってきました。詳しくは過去のブログ記事などを参照していただくとして、そのような政党から「表現の自由を守るために」出馬するというのははっきり言って意味不明です。「暴走族の暴走を止めるためにまずは暴走族の一員になって内側から変えます」と言っているようなものです。


 そういうわけで、私は彼の言動を批判的に監視してきました。その結果、彼は総じて自民党の行う表現弾圧を無視するか追認しており、時々自民党のお偉方に許された範囲で功績めいたものを上げることでガス抜きをしているだけという評価に至っています。


 そのような評価は、今回の問題における彼の発言が裏付けています。以下に引用します。


 出版物の消費税総額表示の件、財務省に確認。スリップ(書籍の間に挟んである紙)や「しおり」で総額表示していれば、カバーの再印刷などは必要ないとのこと。業界団体にも確認しましたが、現場での作業はあるが大きな影響はないだろうとのこと

 このような発言は、現場の負担を一切顧みないあまりにも鈍感なものといえるでしょう。そもそも「業界団体」ってどこやねんという話です。


 もう少し背景を説明すると、山田太郎議員は滅多にTwitterで発言しない人物です。香港における民主化運動弾圧など、表現の自由を守るとアピールする立場にあるなら一言あってもよさそうな重大事件についても「切り取られる恐れがある」といった理由でTwitterでは発言していませんでした。その人物が今回わざわざ発言したということは、相当な理由があってのことでしょう。


 その相当な理由があっての発言と思われる今回のものが、コストを負担させられる中小企業への理解もそれによって締め付けを受ける表現の懸念も全く欠いた発言であるということは注目に値します。山田太郎議員は、実はそこまで表現を、少なくとも一般的な意味で理解される範囲の表現や自由を重視していないのではないのでしょうか。


声をあげよう

 ともあれ、表現に悪影響しか及ぼさないこのような愚策はやめさせなければなりません。不幸中の幸いとして、義務の免除が終わる2021年3月末までまだ時間があります。通常国会も挟みますから、声を上げれば決定を覆す見込みは十分あるといえましょう。


 一方、ここで声を上げなければ、次はカバーの変更を義務化されたりする恐れがあります。そうなればいよいよ中小企業は負担に耐えかね、表現はどんどん制約されてしまいます。ここが正念場です。


 試しに、消費税にかかわっているだろう財務省のご意見箱に投書するというのはどうでしょう。ほんの少しの意見でも、声が多く集まれば無視はできないはずです。

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