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ゲーム規制:久里浜医療センター黒幕論が覆い隠すもの

 新橋九段です。

 香川県のゲーム規制条例ですが、採決に向けて動きがあったためかまたTwitterで活発に反応が見られます。

 そのなかで気になるのが、条例制定に久里浜医療センターが大きく関わっていると非難(not批判)するツイートが相当数存在するように見受けられるということです。


 久里浜医療センターが条例制定に果たした役割

 久里浜医療センターは神奈川県にある医療施設で、多種多様な依存症治療で知られています。ネット上の反応では、このセンターが条例制定のために主導的な役割を果たし、さらにはあたかも「利権」のためにそれを行ったかのように書くものもありました。


 しかし、久里浜医療センターが主導的に条例制定にかかわったとする見方は、事実として疑わしいものがあります。

 条例の検討委員会は非公開かつ議事録もない状態であり(これ自体重大な問題です)、限られた情報から推測するしかありませんが、少なくともセンターの関係者が積極的に動いたとする証拠はありません。


 検討委員の1人であり条例に反対の立場をとる共産党の秋山時貞県議は、ねとらぼのインタビュー記事『「ゲームは平日60分まで」はどのようにして決まったのか 香川県「ゲーム規制」条例案、検討委の1人にこれまでの経緯を聞いた』のなかで、第2回の検討委員会でセンターの院長である樋口進氏を招いたことを明らかにしています。しかし、条例最大の問題である家庭への介入を含む時間制限は、条例の素案で初めて出てきたものであるとも明かしています。また、樋口氏の見解として、時間制限は海外の事例としてあるものの『それがうまく行っているかどうかはまた別の問題』であると指摘しています。


 久里浜医療センターはインターネット依存に関する調査をいくつか行っていますが、その報告書の中でも、単に利用時間が長いほど問題を抱える者が増えるという傾向があることを述べるに留まっています。


 このような証拠から、少なくとも久里浜医療センターが条例、とりわけ硬直的で家庭介入となる時間制限を積極的に推し進めたとは考えられないでしょう。


 センターを悪者にして得られるもの

 では、久里浜医療センターをわかりやすい悪者とすることにはいったいどんな意味があるのでしょうか。


 このような短絡的な見方は、まず第一に、真に条例を推し進めた責任者――あえてセンセーショナルな言葉を使うならば「敵」――を見誤ることに繋がります。

 すでに明らかなように、条例を積極的に推し進めたのは香川県議の大山一郎氏です。氏は自民党と日本会議に所属しています。


 自民党的、あるいは日本会議的な極右・宗教保守思想の根幹のひとつは、家庭への介入、特に「個人の決定権を奪い権威に従わせること」に躊躇いがないことです。それは自民党の憲法改正草案が第24条の文言をいじり、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」から「のみ」を削除しようとしていることからも推察されます。


 今回問題となっているゲーム規制条例が、家庭におけるゲーム時間の介入という側面を持つのも、まさにこの「個人の決定権を奪い権威に従わせること」と同線上にあると考えるべきです。それがたまたま、今回はゲームであり表現であったというだけで、この条例の本質的な問題は人権思想を逸脱する個人への介入にあります。


 また、条例作成プロセスにおける非民主主義的な手続きも問題です。検討委員会が非公開で議事録もない状態で行われていること、パブリックコメントの受付期間が通常の約半分だったことなどの問題ですが、このような民主主義手続きの破壊はすでに自民党が国政で散々やってきたことです。


 つまり、今回のゲーム規制は、様々な面で自民党的・日本会議的な思想の問題が典型的に表れた問題というべきでしょう。久里浜医療センターを悪者に仕立て目立たせることは、その点から目を逸らすことに繋がります。


 これは個人的な推測ですが、山田太郎氏が自民党から出馬したにもかかわらず多数の得票を得て当選したことからもわかるように、いわゆるオタク集団には「表現の自由を守りたいが自民党に投票したい」層が相当数いるようです。しかし、何度も訴えてきたように、自民党に投票をしている限り表現の自由は守られません。


 久里浜医療センターというわかりやすい悪者に惑わされず、真に責任あるものをきちんと批判していくことが必要でしょう。

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