新橋九段です。
文化庁があいちトリエンナーレへの補助金を不交付としました。釈迦に説法であるような気もしますが、どこが問題であるか大筋でまとめておきましょう。
補助金交付は内定していた
重要な点の1つ目は、そもそも補助金が交付されることは内定しており、トリエンナーレもその補助金を前提として運営されていたという点です。
これは事前に申請を却下するよりも悪質といえましょう。
あいちトリエンナーレには多くの芸術家が参加し、多くの会場で長期間にわたって行われます。当然、大金が動きます。補助金交付が内定していれば、その補助金を前提として予算を組むのは当たり前です。むしろ、補助金が交付されたから増やせた展示とか、逆に補助金がなかったから諦めざるを得なかった展示などもあったことでしょう。
そのような大規模な展示において、後出しで7800万もの大金が不交付ということになれば、予算計画が大きく狂います。運営側は経済的な大打撃を被ることになりましょう。そうなれば、今回は県が運営していますが、民間企業であれば最悪倒産ということもあり得ます。自治体であっても、もしかしたら補助金が出ないという状況で展示を行うことは明らかに市民の理解が得られず、今後の実施を断念せざるを得ないことになってくるでしょう。
そうなれば、補助金へ申請できるのは国に後出しで不交付と言われないような安全な展示計画だけです。挑戦的、あるいは批判的な展示は補助を得られにくくなり、廃れていくことになります。そうなれば、日本の芸術は大打撃を受けることになるでしょう。
表面上の理由にも問題あり
文化庁が補助金を不交付とした理由は、『申請者である愛知県は、開催にあたり、来場者を含め、展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、事実を申告することなく、文化庁から問い合わせを受けるまで事実を申告しなかった』『審査の視点で重要な点である、実現可能な内容になっているか、事業の継続が見込まれるかの2点で、適正な審査を行うことができなかった』となっています(参照:愛知 国際芸術祭への補助金 不交付の方針 文化庁-NHK)。これがあくまで表面上の理由であろうことは後述しますが、それを抜きにしてもこの理由には問題があります。
まず、『展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実』といいますが、この事実というのは「開催自治体の首長が弾圧するような発言をした」ことと「それに触発されたと思しき脅迫が発生した」ことです。
常識的に考えれば、前者のようなとんでもない発言を、曲がりなりにも首長が、しかも複数人行うとは予想不可能でしょう。
百歩譲って予想可能でありそうすべきだったとすれば、それは首長が気に入らない表現には補助金を交付しないということと同義であり、表現の弾圧と同じことです。
また、脅迫に関しても、あそこまでの規模になることはやはり予想が難しく、またそもそも脅迫それ自体は運営に一切責任がないものです。第一、不当な理由によってなされる行為であるからこそ「脅迫」なのであって、それにも責任を持てというのであれば、脅迫さえすれば文化庁が展示を否定してくれるとお墨付きを与えたことになります。
真の理由は「展示内容」
しかし、この理由はあくまで表面上の理由に過ぎないでしょう。でなければ、このように無理のある理由で内定していた補助金を不交付にするという横紙破りはしないでしょうし、検証委員会の中間報告で大村知事が展示再開を目指す意向を明らかにした翌日というタイミングを選ぶこともなかったでしょう。
そもそも、菅官房長官と柴山文部大臣(当時)が展示を問題視した時点では脅迫もあったとはいえ展示は行われていたわけで(両氏の発言が8月2日、中止の発表が同月3日)、時系列から考えても「円滑な運営が出来なかった」ことを問題視して補助金不交付を示唆したわけではないことは明白です。
もちろん、表立って「展示内容が気に食わない」とは言えないのでこのような表向きの理由になったのでしょう。しかし、本音の理由は明確に伝わっています。まずはその点を理解したうえで、「手続きの問題だから無問題」などということは絶対にないことを確認しなければなりません。
そして、これが明らかに展示内容を問題視する立場から始まった検閲であることを確認しなければなりません。文化庁の決定は表現の自由に照らしてあり得ないものであり、直ちに撤回されなければなりません。
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